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2012.01.30 Monday/19:54 | ![]() |
ありがとう |
白陽国の王、珀黎翔は、自分のうめき声で目が覚めた。
起き上がって額の汗を拭うと、深く溜息をつく。
―――夕鈴、君のいない夜は何て長いんだろう。
彼女が隣にいたなら・・・彼女を抱き締めて眠ったら、悪夢など吹き飛ばしてくれるのに。
自分独りの時は、不安を感じることなどなかった。
ただこの国のため、自らの感情を抑える事など容易だったはずなのに。
彼女と出会ってから、自分はずいぶんと変わってしまった。
こんな弱い自分がいたことを知りたくはなかった。
『陛下は自らのお仕事を。私も頑張ってきます』
晴れやかな彼女の笑顔が鮮明に蘇る。
―――自分が苦しむのならいくらでも耐えられる。
『だからここにいてください。私は貴方が一緒に苦しんでくれる姿なんて見たくないもの』
あっけらかんと言う彼女の笑顔。
いつの間にか、全く彼女に頭のあがらない自分を彼は自嘲気味に笑った。
胸の不安はまだ取れない。
そして彼はまた眠れない夜を過ごすのだった。
こんなに走ったのは、いつ以来だったろう・・・。
早く・・・少しでも早く。
部屋に入って無事な彼女の姿を見たとき、足から力が抜けてへたりこむかと思った。
彼は、彼の姿を見つけ、微笑みながらゆっくりと起き上がる彼女に手を貸すために駆け寄った。
「陛下、私、頑張りましたよ」
弱々しい声で少しでも元気に見せようとする夕鈴を彼はゆっくりと抱きしめる。
「ああ、よくやった」
久しぶりの彼女のぬくもり。
彼がゆっくりと彼女を離すと、今度は彼女の手が彼の顔に伸びた。
「陛下、頬がこけてません?」
彼は自分の頬に手をやりながら、
「君がいなかったせいかな」
「ほんの数日なのに?」
夕鈴がくすりと笑って、視線を自らの脇に落とした。
「陛下に似てますよね?」
生まれたばかりの赤子は、きゅっと両手を握りしめて眠っていた。
「どこが?」
単刀直入に意地悪く言う彼に、
「う・・・なんとなくですよ!」
とこれまたアバウトな夕鈴の答えに彼は思わず吹き出す。
そして、その微笑みのまま、彼女の両手を取った。
「―――君に逢うことができて、私は本当に幸せだったと思う」
突然現れた臨時の花嫁・・・それはいつしか本物になり、彼のかけがえのない存在になっていた。
「ありがとう。夕鈴」
彼の眼差しの想いに応えるように夕鈴もふんわりと笑う。
「いきなり何ですか。・・・でも、そう言ってくれて嬉しい。私もありがとう」
静かな微笑みの時間を打ち破ったのは、赤子のけたたましい泣き声。
夕鈴は、優しく小さな彼を抱き上げる。
「力強い泣き声だな。姿形が私に似てるなら、これは君似か?」
「うるさいってことですか?!」
キッと彼を睨んだ夕鈴は、すぐに笑って、
「びしばし育てますからね!まずは・・・」
「まずは?」
「庶民の『庶』の字を教え込みます!」
彼はプッと吹き出し、2つの宝物を優しく抱き締めた。
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ほのぼのほんわか…
本当にこの雰囲気が大好きです!
もうこちらこそありがとうだー!←
お疲れ様でした。
素敵な作品をありがとうございました。
いつでもお帰りをお待ちしていますよ(笑)